新世紀の電話の発明。 ― 2013年02月07日 22:54:34
「ワトソン君、ちょっと来てくれ!」
「どうしたんです、博士?それに私はワトソンなんて名前じゃあないですよ」
うっそりと登場した助手の姿に、博士はつまらなそうな顔をして見せた。
「ふん、まったくつまらん男じゃのう。せっかく世紀の発明に相応しくグラハム・ベルを引用したというのに」
グラハム・ベルといえば、1876年に電話を発明したアメリカ人のことである。『ワトソン君、ちょっと来てくれ!』は、通話された最初の言葉だ。
「すいません。しかし博士、世紀の発明とはなんです?話の流れからすると、当然電話に関係するんじゃないかと思いますが」
「ふむ、そのくらいは君にもわかるか。これを見たまえ」
博士が取り出したのは、一対の携帯電話である。
「見たところ普通の携帯のようですが?」
「馬鹿を言っちゃいかん。これは大変な代物なのだ」
携帯を振りかざし、博士が語る。
「携帯電話の急激な普及に伴って、携帯電話機自身も異常なまでの進化を遂げてきている。いまや、携帯電話は、電話をするだけにとどまらず、メールに始まるネット環境を持ち、電子手帳に負けぬほどのPDA機能も有するに至っている。あの小さな機体にだ。最近では、携帯一台あれば、ゲームも出来るし、インターネットで買い物も出来る。その上、写真を撮ったり、音楽も聴けたり、カラオケだって出来るものすらある」
「そうですよねぇ、便利になりましたよねぇ」
「だが、それはあくまで電話機の付加価値が多彩になったに過ぎない。音声だけで相手とのコミュニケーションをとるということに関して、電話としてはまだまだ進化したとは言えないのだ」
「しかし博士、近い将来には、携帯によるテレビ電話なども登場すると言われていますよ?」
その反論に、博士は肩をすくめて見せる。それもオーバーな仕草で。
「テレビ電話などと、あんなつまらんものと一緒にしないでくれ。あれは、中途半端すぎるのだよ。人は時として、面と向かって話をしたくないときがあるのだ。音声だけだから、相手が見えないからこそ言えること、伝えられることというものもある。逆に、話をするなら顔を突き合わせて話をしたいときもある。だが、そういうときと言うのは、相手を身近に感じ、その五感で相手とコミュニケーションを取るべきなのだ。ちゃんと会って話をするということだな。そう考えるとテレビ電話というのは、どちらともつかずなものなのだよ」
助手は、そんなもんですかねぇ、と曖昧な相づちを打つ。
「じゃあ、博士のいう電話の進化とはどういうものなのです。それが今回博士が発明した携帯なのでしょう?」
「うむ。さっきも言ったとおり、コミュニケーションを考えた場合、きちんと会って話をしたい。そこがポイントだ」
「会って話をするって、離れているからこそ携帯で話をするんじゃないですか。そんな簡単に遠くのところから会いに来れたら苦労はしない…」
そこまで言いかけて助手は、まさかという顔をする。
「そう、簡単に会いに来れればいいのだ。不可能だと思うから普段考えつきもしない」
「それじゃ、この携帯はかけた相手に会える、とか?」
博士がニヤリと笑う。
「一体どういう…自分自身を物体転送でもするのですか?電話では、音声を音の振動としてとらえ電気信号に変換し、回線によって相手に伝達、相手側で音声に再変換するわけですよね。それを人間自身で行う…人間自身をすべてデータに変換し転送する…しかし、それはデータが膨大になりすぎて不可能では?」
「半分正解というところか。はじめ私も人間自身を転送するというのも考えた。が、それは諦めたのだよ。データ量の多さや転送速度の問題ではない。そんなことは、いくらでも解決できよう。だが、その転送時におけるデータの欠損、ノイズの混入の方が問題なのだ。完全に、一切の誤差を持たずデータを送受信など出来はしないからな。だが、そうなると転送をした後のデータから復元する人間は同一人物で無くなってしまうかもしれない。あまりに危険性なのだ。それに人間をわざわざ転送する必要もないだろう?」
「だって、博士が言ったんですよ。ちゃんと会って話をするんだって」
「だから半分正解と言ったのだ。自分が実際にそこに行く必要もないんじゃないかね。あたかも行っているかの様に感じられれば」
ヒントめいた言葉に、ポンと手を打つ。
「わかったようだね。実際にやってみよう」
そういって、博士は携帯を手に取る。すると、目の前にもう一人博士が現れた。
「わわわっ。これって、ヴァーチャルリアリティですか?」
博士がうなずく。
「この携帯は、人間の持つ感覚、五感を転送出来るのだ。センサーとなるホログラムユニットを形成し、自らはそこに行ったかのように見せる。そしてそこで感じられる感覚は、携帯を通じて自分に伝達される。それは、遠く離れていてもまさに自分がそこにいるかのように思え振る舞えるということなのだよ。君もやってみたまえ」
助手のホログラムも現れる。
「あっ、面白い。ホントに触っているみたいに感じますね」
「視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。五感すべてを再現出来るのだ」
「すごいですねぇ。うわ、ホントに匂いまで感じられますよ」
助手は、感動ひとしきりに、あちこちを見、興味を持って回っている。
「しまった、こいつはいかん」
「どうしたんです?」
味覚の試験をしていた博士が顔をしかめて言う。
「味覚は、五感の中でも再現が難しいとはいうが…食べてみたまえ」
そういって差し出されたバナナを助手が口にする。
「うげ」
バナナは、見事にしめ鯖の味がした。
「どうしたんです、博士?それに私はワトソンなんて名前じゃあないですよ」
うっそりと登場した助手の姿に、博士はつまらなそうな顔をして見せた。
「ふん、まったくつまらん男じゃのう。せっかく世紀の発明に相応しくグラハム・ベルを引用したというのに」
グラハム・ベルといえば、1876年に電話を発明したアメリカ人のことである。『ワトソン君、ちょっと来てくれ!』は、通話された最初の言葉だ。
「すいません。しかし博士、世紀の発明とはなんです?話の流れからすると、当然電話に関係するんじゃないかと思いますが」
「ふむ、そのくらいは君にもわかるか。これを見たまえ」
博士が取り出したのは、一対の携帯電話である。
「見たところ普通の携帯のようですが?」
「馬鹿を言っちゃいかん。これは大変な代物なのだ」
携帯を振りかざし、博士が語る。
「携帯電話の急激な普及に伴って、携帯電話機自身も異常なまでの進化を遂げてきている。いまや、携帯電話は、電話をするだけにとどまらず、メールに始まるネット環境を持ち、電子手帳に負けぬほどのPDA機能も有するに至っている。あの小さな機体にだ。最近では、携帯一台あれば、ゲームも出来るし、インターネットで買い物も出来る。その上、写真を撮ったり、音楽も聴けたり、カラオケだって出来るものすらある」
「そうですよねぇ、便利になりましたよねぇ」
「だが、それはあくまで電話機の付加価値が多彩になったに過ぎない。音声だけで相手とのコミュニケーションをとるということに関して、電話としてはまだまだ進化したとは言えないのだ」
「しかし博士、近い将来には、携帯によるテレビ電話なども登場すると言われていますよ?」
その反論に、博士は肩をすくめて見せる。それもオーバーな仕草で。
「テレビ電話などと、あんなつまらんものと一緒にしないでくれ。あれは、中途半端すぎるのだよ。人は時として、面と向かって話をしたくないときがあるのだ。音声だけだから、相手が見えないからこそ言えること、伝えられることというものもある。逆に、話をするなら顔を突き合わせて話をしたいときもある。だが、そういうときと言うのは、相手を身近に感じ、その五感で相手とコミュニケーションを取るべきなのだ。ちゃんと会って話をするということだな。そう考えるとテレビ電話というのは、どちらともつかずなものなのだよ」
助手は、そんなもんですかねぇ、と曖昧な相づちを打つ。
「じゃあ、博士のいう電話の進化とはどういうものなのです。それが今回博士が発明した携帯なのでしょう?」
「うむ。さっきも言ったとおり、コミュニケーションを考えた場合、きちんと会って話をしたい。そこがポイントだ」
「会って話をするって、離れているからこそ携帯で話をするんじゃないですか。そんな簡単に遠くのところから会いに来れたら苦労はしない…」
そこまで言いかけて助手は、まさかという顔をする。
「そう、簡単に会いに来れればいいのだ。不可能だと思うから普段考えつきもしない」
「それじゃ、この携帯はかけた相手に会える、とか?」
博士がニヤリと笑う。
「一体どういう…自分自身を物体転送でもするのですか?電話では、音声を音の振動としてとらえ電気信号に変換し、回線によって相手に伝達、相手側で音声に再変換するわけですよね。それを人間自身で行う…人間自身をすべてデータに変換し転送する…しかし、それはデータが膨大になりすぎて不可能では?」
「半分正解というところか。はじめ私も人間自身を転送するというのも考えた。が、それは諦めたのだよ。データ量の多さや転送速度の問題ではない。そんなことは、いくらでも解決できよう。だが、その転送時におけるデータの欠損、ノイズの混入の方が問題なのだ。完全に、一切の誤差を持たずデータを送受信など出来はしないからな。だが、そうなると転送をした後のデータから復元する人間は同一人物で無くなってしまうかもしれない。あまりに危険性なのだ。それに人間をわざわざ転送する必要もないだろう?」
「だって、博士が言ったんですよ。ちゃんと会って話をするんだって」
「だから半分正解と言ったのだ。自分が実際にそこに行く必要もないんじゃないかね。あたかも行っているかの様に感じられれば」
ヒントめいた言葉に、ポンと手を打つ。
「わかったようだね。実際にやってみよう」
そういって、博士は携帯を手に取る。すると、目の前にもう一人博士が現れた。
「わわわっ。これって、ヴァーチャルリアリティですか?」
博士がうなずく。
「この携帯は、人間の持つ感覚、五感を転送出来るのだ。センサーとなるホログラムユニットを形成し、自らはそこに行ったかのように見せる。そしてそこで感じられる感覚は、携帯を通じて自分に伝達される。それは、遠く離れていてもまさに自分がそこにいるかのように思え振る舞えるということなのだよ。君もやってみたまえ」
助手のホログラムも現れる。
「あっ、面白い。ホントに触っているみたいに感じますね」
「視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。五感すべてを再現出来るのだ」
「すごいですねぇ。うわ、ホントに匂いまで感じられますよ」
助手は、感動ひとしきりに、あちこちを見、興味を持って回っている。
「しまった、こいつはいかん」
「どうしたんです?」
味覚の試験をしていた博士が顔をしかめて言う。
「味覚は、五感の中でも再現が難しいとはいうが…食べてみたまえ」
そういって差し出されたバナナを助手が口にする。
「うげ」
バナナは、見事にしめ鯖の味がした。
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